「怪我したっていうのは聞いた?」
「あ、えっと、はい、でも日向先輩この前も普通に走ってて……」
「うん、なるほど」
大丈夫、分かるよ。私を安心させるように笑いながら、村瀬さんは少し考えるように宙に視線を投げた。
そこに店員さんが二つのココアとアイスコーヒーを運んできてくれる。フレッシュ要りません、と断って会釈をする村瀬さんはやっぱりスマートだ。
店員さんが去って行ったのを目で追いつつ、ガムシロップも入れずにアイスコーヒーを一口飲んで、私たちに向き直った。
「三浦は中学のとき全国も経験してるようなスプリンターでさ、高校でも入部したときから期待されてたんだ」
「スプリンター……?」
「あ、短距離走者ってことな」
首を傾げた私に、分かりやすく補足しながら話してくれる。
「一年の春からあいつはリレーメンバーにも選ばれてて、でもそれを決して驕ったりはしなくて。むしろ誰よりも早く朝練の準備を始めて、誰よりも大きな声を出して、誰よりも真剣に練習に打ち込むような、そんなやつで」
だからみんなからも絶大な信頼を得ていたのだと、村瀬さんは言う。