「三浦と、何かあった?」
私がグラスを置いたのと同時に投げかけられた質問。驚いて顔を上げれば、当たりだな、と村瀬さんは笑う。
「どうして……」
「何となく。そんな顔してたから」
そんなに私って分かりやすいのか。感情を隠すことが上手いと自負していたのに、ここ最近は見抜かれることのほうが多い。
そこまで考えて、いや違うと首を振る。
きっとこれまでは人を避けていたから、私の感情の変化に気づいてくれるような人がいなかっただけだ。逆に言えば、紫苑先輩や桜さん、村瀬さんは私のことをちゃんと見てくれているからこそ気づいたのだろう。
敵わないな、と思いながら隣に座る真央くんを見上げる。すると真央くんは私の視線に気づいて、トン、と文字通り私の背中を押した。
「……ひ、日向先輩は、どうして陸上を辞めてしまったんですか」
ぎゅっと、膝の上で手を握った。
爽やかで気の回る村瀬さんは、デートという名目で私にこの質問をする機会を作ってくれたのだろう。
私の聞きたかったことをまるで分っていたように頷いて、ゆっくりと口を開いた。