そう。

ノリノリで送り出してくれた日向先輩と対照的に、真央くんは私の制服の袖を掴んで離してくれず、どうしようもなかった私はそのまま連れて来てしまったのだった。

正直言って、デートなんて初めてだし村瀬さんと二人で上手く話せる自信もなかったから、真央くんが隣にいてくれることはとてもありがたいのだけれど。


「いや、ちょうどよかったよ。真央くんにも頼みたいことあったから」

「へ」


呆気にとられて口を開けた私に、どれにする、とメニューを見やすく差し出してくれる村瀬さん。その気遣いだけで何となくこの人は慣れているんだろうなと感じ取れる。

色んな種類のコーヒーの名前が羅列されているページの一番下にココアという文字を見つけて、安堵しながらそれを指差すと、隣から伸びてきた真央くんの指も同じものを選んでいた。

了解、と笑った村瀬さんはまたもやスマートに店員さんを呼んで、私たちの分まで注文をしてくれる。なるほど、これはモテるな。


「……ん?」

「あ、いや、何でもないです」


凝視していたのがバレて恥ずかしくなった私は、目の前に置かれていたお冷に口をつける。お洒落なグラスに入ったそれは、ふんわりとレモンの香りがした。