◇
いらっしゃいませ、と店員さんの柔らかい声が響く。いまいち状況を理解しきれていない私が、村瀬さんに導かれるままにやって来たのは雰囲気の良いカフェだった。
間接照明がオレンジの光でぼんやりと辺りを照らし、控えめに流れているBGMと人の話し声がちょうどいい具合に混ざっている。店の奥には黒く大きなグランドピアノとドラムセットの置かれた小さなステージがあった。
「突然声かけて悪かったな」
「え、あ、いえ」
案内されたのはソファー席。村瀬さんと向かい合うように座れば、思っていたよりもソファーはふかふかで、身体がゆっくりと沈んだ。
そして、私の隣。
負のオーラを放ったままの真央くんが、どすんと腰を下ろした。
「こっちこそ、その、……すみません」
デートだと言われたのに真央くんを連れて来てしまって、と頭を下げると村瀬さんは可笑しそうに笑った。