「ところで、葵ちゃん」
不意に村瀬さんの顔が視界に入る。いきなりの爽やか笑顔に慄いて数歩後ずさると、背中が真央くんに当たったけれど、謝るような心の余裕もなくてそのまま返事をした。
「へ、へい!」
「今日部活終わったあと時間ある?」
「え、あ、全然、暇です」
「じゃあデートしよ」
「あ、はい!」
よかった、気まずい空気を救ってくれた。ほっと息を吐いたのも束の間。
なるほどねデートね、あーはいはいオッケーオッケー……。
「……デート……?」
気の抜けた声で繰り返した私に、村瀬さんはにっこりと微笑む。
と同時に、後ろから真央くんのとてつもない負のオーラが飛んできた。
やっぱり葵は村瀬に口説かれてんのか、と何故か嬉しそうな日向先輩の明るい声が、どんよりとした空気を裂くように響いた。