大きく響いたその声に、びくっと肩が揺れた。

日向先輩は進路希望調査の紙を握った手に力を込める。ただでさえくしゃくしゃの紙が、また潰れるのを見た。


「葵だって、毎日毎日あれ持ってくるくせに、一度も吹いたことねーだろ!」


息が止まる。

日向先輩の視線の先にあったのは、私がいつも持ってきている黒いケース。見捨てることもできない“かつての相棒”。


「真央くんだって、声出ねーだろ!」


私は馬鹿だ。

日向先輩にとっての走ることは、私にとってのトランペットと似ているのだ。真央くんの声についてもしかり。よく考えもせず首を突っ込んでいいものではなかったのだ。


シンと静まり返った部室に、ヒュッと息の音が聞こえる。

でも、私も日向先輩も、真央くんの口の動きを見ることはなかった。否、見れなかった。


「……ごめん、言い過ぎた」


苦々しい表情で、ぽつり。

この紙見つけてくれてありがと、と日向先輩はくしゃくしゃになった進路希望調査の紙を机の上に広げながら言う。


「……ごめん、なさい」


うわごとのように私も呟いた。


こんなとき、紫苑先輩ならどうするんだろう。

私は自分の前髪に留まったヘアピンを、無意識のうちに触っていた。