「陸上やってたんですか」


ああ、これは核心に触れる質問なのかもしれない。

そう気づいていながら、私の口は止まることを知らなかった。


「……別に、昔ちょろっとしてただけで今は洗濯に夢中だし」

「それは嘘じゃないですか。ちょろっとしてただけの人が優勝なんてできるわけないです」


日向先輩は、誰よりも熱心に洗濯部の活動を行っている。そのことは分かっているはずだったのに、今の言葉は言い訳のようにしか聞こえなかった。


「すごい努力したんじゃないですか、なんで辞めちゃったんですか」

「怪我して、もう走れないから」


熱血タイプの日向先輩が中途半端に取り組む姿は想像がつかない。洗濯に打ち込むことで、見ないようにしてきたのだろうか。その情熱を、違う方向に持って行こうとでもしたのだろうか。


「でも日向先輩、この前途中で雨降ってきたとき全力疾走してましたよね」


スケッチブックの上をすべる真央くんの鉛筆の音が止まった。


「本当はもう治ってるんじゃないですか? だから村瀬さんはいつも日向先輩を気にして」



「――っ、ほっとけよ!」