「うた、を」

「歌?」

「雨の日なら、どれだけ音痴でも歌いながら帰れるので」


傘を差しながら歌うと、傘に当たる雨の音が下手くそな歌声を隠してくれる。傘の中だと音が反響して、誰にも知られない自分だけのステージみたいになるのだ。

だから雨はそんなに嫌いじゃないです、とホウキを持った手を動かしながら言ってから、ふと気付く。


あれ、ひょっとして私、今めちゃくちゃ恥ずかしいことを暴露してない……?



「えっと! えっと、まあ、あの、歌いながら帰ったこととか全然、これっぽっちも、あの、無いんですけどね!」

「いやお前、誤魔化すの下手すぎんだろ」


日向先輩の冷静なツッコミが飛んできて、私は項垂れるしかなかった。

だからそのとき、真央くんが声を出そうとしていたことなんて気づかなかった。


「葵はどんなの歌うんだ?」

「十八番はとなりのトト……じゃなくて、もうこの話終わりで! さっさと見つけないとチャイム鳴りますよ!」

「やべえな!」