「みんな、お前が何を言ったかじゃなくて、何をしたかを見てんだよ」
それは足が速いとかそういうことじゃなくて、普段誰よりも声を出してたり、誰よりも早く練習に来てたり、そういうことだと思う。小さいことだけど、その陸上に対する態度にみんなはついてくるんだ。
日向先輩は前のめりになりながら、村瀬さんにそう言う。
「……うん」
何か言いたげにしながら、でも頷いただけの村瀬さん。
「部長が遅れてどうすんだよ」
「……そうだな」
熱く語る日向先輩に、村瀬さんは苦笑を零す。たまにお前はいいことを言う、と村瀬さんは呟いて靴紐をきゅっと結び直した。
「じゃあ、俺行くわ」
「おう!」
「あと葵ちゃん、前髪そっちのほうが可愛いと思う」
「は、へ、……え」
最後に爆弾を投下して、颯爽と走り去っていった村瀬さん。呆気にとられながら前髪を触ると、紫苑先輩のくれたヘアピンが指に触れる。
「……やっぱお前、村瀬に口説かれてんじゃねーの?」
その後ろ姿を眺めながらぼそりと呟いた日向先輩に、とんでもない、と首を振った。