キラキラとしたそのヘアピンはお花がモチーフになっていて、中央にはパールがついている。その可愛さに息を呑んで、それから私は慌てて紫苑先輩を見た。


「こ、これ……!」

「お礼よ」

「お礼って、……え?」


何もお礼されるようなことはしていないはずだけれど、と首を傾げる。むしろお礼をしなきゃいけないのは私のほうだ。紫苑先輩にはお世話になりすぎた。

そんな私にふわりと笑って、紫苑先輩は目線を合わすように膝を曲げた。咄嗟に俯いて前髪に隠れようとしたけれど、紫苑先輩がくれたヘアピンがそれを阻止する。どうしようもなくなった私は、結局紫苑先輩と向き合うしかなくて覚悟を決めた。

黒曜石みたいな瞳に、不安げな私の顔が映る。情けなく下がった眉までしっかりと見えていて、前髪がいかに自分を隠すことに役立っていたのかを実感した。


「最初出会ったとき、自分は存在価値がないって言ってたよね」


紫苑先輩の形のいい唇が動く。その唇には、もう赤いリップは塗られていなかった。


「でも、私は葵ちゃんがいなかったら、桜の本音を聞くことはできなかったわ」