「ねえ、真央くん」


真央くんは今、穏やかな気持ちで紫苑先輩を送り出そうとしている。


「みんなのこと、支えてあげてね」


静かに落とされたその言葉。こくりと頷いた真央くんを見て、紫苑先輩は満足気に笑った。


「……さて」

「は、はい!」


ゆっくりと向けられた視線に思わず返事をすれば、ぷっと笑われた。まだ呼んでないわよ、と笑い声混じりのハスキーな声が返ってくる。

しくじった、と頭を抱えた私を一頻り笑ってから、紫苑先輩は咳ばらいをして私と向き合った。


「葵ちゃんは、空気を読もうとしすぎるところがあるから、ちょっと心配してたんだけど」


でも、もう大丈夫そうね、と。柔らかい声が落ちる。

対して私は、紫苑先輩がそこまで私のことを見ていてくれたこと、そして心配してくれていたことに驚いて、上手く言葉が出なかった。

確かに私は、空気を読もうとしすぎるのだ。人と関わることを避けていた間に、その能力は培われた。相手の機嫌を窺いすぎて、それが結果的に空回ることはもはやテンプレとなっている。だからボロが出ないよう、あまり話さないようにしているのだけれど。

そんな私のことを、紫苑先輩は分かっていてくれたのか。心配してくれていたのか。