「あんたは本当に面倒くさい男よね」
「ここで罵ってくる必要ある!?」
「人一倍熱くて、うるさくて、そのくせ打たれ弱いんだもの。あと敬語が下手」
「いやだって別に紫苑先輩に敬意を表す必要ないと思……嘘だって! ちょ、痛いから! 脛蹴るな!」
しんみりした空気を流さないように気を遣ってくれているのだと、分かるようになった。出会ってから数週間しか経っていないけれど、ほぼ毎日顔を合わせていたのだ。先輩二人がいつも部の雰囲気を明るくしてくれていることは、しっかり感じ取っていた。
きっと真央くんもそれを分かっているのだろう。相変わらず笑顔は少ないけれど、二人を見る目はどこか柔らかいような気がした。
「まあ、今のは冗談で」
「冗談にしては俺の受けたダメージがでかすぎるんすけど」
蹴られた脛をさすりながら、ぶつぶつと呟く日向先輩。
紫苑先輩はそれを見て呆れたように息を吐いて、あんたが部長でよかったわ、と笑った。
「……ちゃんと、走り出しなさいよ」