「ええ、もういいのよ」
その必要はなくなったから、と笑った紫苑先輩はやっぱり綺麗で。直視できないほどの眩しい笑顔に、私はまたそっと視線を逸らした。
「今日はね、お別れを言いに来たの」
退部届と丁寧に書かれた封筒。それを紫苑先輩が机の上に置いた。
え、と私の口から声が落ちた。
「お別れ、って……」
あわあわと日向先輩を見ると、こうなることが分かっていたように日向先輩は落ち着いていて。真央くんに視線を移すと、スケッチブックから顔を上げて紫苑先輩のことをじっと見ていた。
開けられた窓から五月の風が入ってくる。そよそよと心地好い風だ。私の長い前髪が風に靡く。
「一応ね、けじめをつけようと思って。ほら、受験勉強にそろそろ本腰入れろって今井も言ってたし」
他の部活の三年生も結構引退してるし、洗濯部も波に乗るべきかなって。
そう言いながら紫苑先輩は、自分の短くなった髪を触る。切りすぎたかしら、と笑った紫苑先輩を見て、私はすべてを察した。