「やっぱり話し方も戻したほうがいいかしら?」


そう言いながら人差し指を顎に置いて小首を傾げる紫苑先輩は、上目遣いで私を見てくる。

紫苑先輩の美貌にはようやく慣れつつあったのに、こうして見た目の性別がガラッと変わると緊張して上手く話せない。違和感が半端ないです、とだけ伝えて私はイケメンから目を逸らした。


「っていうか紫苑先輩、もういいのか?」


不意に、不思議そうな日向先輩の声が響いた。女装しなくても、と付け足された言葉。反射的に顔を上げて、私はあの日のことを説明しようと口を開いたけれど、どう言えばいいのか分からなくて、結局口をぱくぱくさせて閉じた。


脳裏に焼き付いているのは、桜さんの涙と紫苑先輩の笑顔。

ずっと桜さんを守ってきた紫苑先輩が報われたのだと、それらが物語っていた。まるでそれは映画のワンシーンのようで、紫苑先輩と出会って数週間しか経っていない私でさえもつられて泣きそうになった。

あの場に私が居合わせてしまってよかったのかどうかは分からないけれど、私はあの場に居ることができてよかったと、今になってじわじわと思う。

だってきっと、紫苑先輩の中で何かが大きく変わった瞬間だったのだ。感動したという言葉を使ってしまうと何だか薄っぺらくなる気がするけれど、ただ純粋に感動したのだ。