「おはようございます遅くなってすみま、えええええ!?」

「うっせーぞ葵」

「大きい声出るようになったわね~」


ちょっと遅刻したかな、と思いながら部室へと駆け込んだ私を迎えたのは、そんな先輩二人だった。

窓際にはいつも通りスケッチブックを広げる真央くんの姿もある。大声を出した私をちらりと見て、あからさまに顔をしかめた。

静かにしろよ、という無言の圧力をビシビシ感じたけれど、いや、今はそれよりも。


「し、え、し、紫苑先輩、……ですか?」


半信半疑で問いかければ、正解、と軽い口調で返ってくる。

そのハスキーな声には確かに聞き覚えがあるのに、目の前にいるのは黒髪を無造作に遊ばせた男子生徒で、私は思わず息を呑んだ。


「ネクタイしたの二年ぶりだわ。これすっごく窮屈ね」

「え、あの、いや、……え?」


話し方と見た目がまったく一致しないんですけど、と日向先輩に救いを求めた私に、まあ気持ちは分かる、と日向先輩は笑う。

鎖骨下あたりまであった艶のある黒髪をバッサリと切った紫苑先輩は、男子生徒用の制服に身を包んでいた。黒曜石のような瞳が朝の太陽の光を浴びて、きらきらと輝いている。その姿はまさに、どこかのアイドルグループにいそうなイケメンだった。