「ご、ごめ……」
心に苦痛を与える可能性に怯えながら、腕の力を緩める。
その瞬間。
「紫苑」
ぎゅうっと。背中にまわった腕に力がこもる。
紫苑の葛藤さえも知っていたかのように、自ら抱きついてきた桜。その温もりと柔らかさに泣きそうになりながら、今度こそ、その存在を確かめるように抱きしめた。
じわりじわりと滲んでいく視界の隅で、部屋の中から様子を窺うように顔を出していた葵が、どうしたらいいものかと困惑していたけれど、今ばかりは放っておいても許されるだろう。
「ずっと守っていてくれたんだね」
世界で一番愛しい声が、耳元でそう囁く。
そんな大げさなことはしてないけど、と照れくさくなって呟くと、桜は紫苑の腕の中でくすくす笑って肩を揺らしたのだった。