人差し指が紫苑の手の甲を撫でる。まるでその手が骨張っていることを、確かめるように。
「通院でもいいよ、ってお医者さんから言われた頃にはね、だいぶ私も落ち着いて。この部屋に戻ってきて一番最初にしたのは、アルバムを見ることだったの」
その言葉に、ぴくりと反応した紫苑の手。
桜はそれを感じながら、さらに言葉を続けた。
「……びっくりした。なんで忘れることができたんだろうって。私たち、生まれた頃から本当にずっと一緒にいたのに、アルバムは紫苑との写真で埋め尽くされていたのに、どうして忘れていたんだろうって」
熱い息が漏れた。少しでも気を緩めると、涙が零れそうだった。
もちろん今でも思い出せないことはあるんだけど、と桜は言う。事件のときの記憶はほぼ空っぽで、その前後の記憶も曖昧だと。
そこでようやく、紫苑は一つの疑問を口にした。
「……怖く、ないの」
ああ、声が震える。情けないなと自嘲するように息を吐いた。