――木村紫苑には、生まれた頃からずっと一緒に育ってきた幼なじみがいる。

桜というその幼なじみは、よく食べ、よく眠り、よく笑う、心の優しい女の子だった。


気づけばずっと隣にいた。そのことがあまりにも普通で、何の疑問も抱いたことはなかった。

中学生になってもその仲は変わらず、高校も当たり前のように同じところに入った。

サッカー部のマネージャーになりたいと言った桜の背中を押した。自分は中学のときと同じくバスケ部に入った。

強豪サッカー部のマネージャーの桜は、毎朝早くから練習に行き、夜も遅くまで選手の練習に付き合う。対して、曜日によって体育館の使える日が決まっているバスケ部の紫苑は、そこまで忙しいわけではなかった。

そんな二人は、最初こそ一緒に登下校していたものの、だんだんと別行動することが増えていった。それまで共に行動することが当たり前だったのに、一ヶ月もすれば別々に行動することにも慣れてしまった。



ある日のことだった。


風呂から上がると一本の留守電が入っていた。時刻は二十三時を過ぎている。欠伸をしながらそれを聞いた。


『――たすけて』


一気に目が冴えた。頭の中が真っ白になった。すぐさま電話をかけ直したけれど、電源が切られていた。

家を飛び出した。桜の家のインターホンを押せば、桜の両親が慌てた様子で出てきて、桜がまだ帰ってきていないことを紫苑に告げた。