……ちょっと待って。


今、桜さんは、何って言った?


付き合ってる? 彼女?

そんな、まるで、紫苑先輩が男だとでも言うような――。



もしかして、と思いながら顔を上げた。私の視線に気づいた桜さんは、視線に含まれている私の気持ちを知っているかのように柔らかい笑顔を浮かべて首を傾げる。


「あの、桜さん……」


気づかない振りをしておくべきだと、頭の中で警鐘が鳴った。でも、ここまで分かりやすい反応をしてしまったあとの誤魔化し方を、私は知らない。だからって、これ以上首を突っ込んではいけないことは分かっていた。


どうしよう、どうしよう。

やっぱり何でもないですと俯けば、この場をやり過ごすことができる? いや、たとえ今はやり過ごせたとしても、私が桜さんの友だちである限り、疑問を抱えたまま接していくことになるのでは? じゃあもう私は桜さんに関わることをやめるべき? せっかくできた友だちなのに?

ぐるぐる、自問自答を繰り返す。正解が分からないまま時間だけが過ぎていく。チクタクと時計の秒針が進む音がやけに大きく聞こえた。