「待って、コントローラー二つしか無いかも」


いそいそとセッティングをしている桜さんが、不意に呟いた。

その手には白とピンクのコントローラーが一つずつ握られている。


「紫苑持ってなかったっけ?」

「ああ、あるわよ」


何なら取って来るけど、と言った紫苑先輩に桜さんは目を輝かせる。二人のやりとりをぼーっと眺めていた私は、紫苑先輩が家にコントローラーを取りに行っている間、桜さんと二人きりになるということに気付いて、背筋が伸びた。

桜さんの醸し出す優しい雰囲気と紫苑先輩のアシストがあれば緊張しないでいることができるけれど、二人きりとなると話は変わってくる。何を話せばいいのだろう、と一抹の不安を抱えながら、じゃあちょっと取って来るわ、と部屋を出て行った紫苑先輩の背中を見つめた。

ガチャン、と玄関のほうでドアが閉まる音が聞こえる。とりあえず心を落ち着けようとりんごジュースを飲んでみたけれど、味わう余裕はなかった。


「ねえ、葵ちゃん」

「え、う、あ、はい!」


不意に桜さんが私を呼んだ。心の準備ができていなかった私は、何とか返事をして顔を上げる。そんな私の様子を見て、桜さんは不思議そうに首を傾げてこう言った。