「……私、明るくなりましたか」


部室からハンガーを持ってきてくれた真央くんにお礼を言って、三人で洗濯物を干す。パンパンと皺を伸ばしながら、さっき日向先輩に言われたことを口にすると、隣で干していた日向先輩は頷いた。


「うん、今のお前は“すすぎ”って感じだな!」

「はい?」


意味が分かりません、と顔をしかめる。奥の竿に洗濯物を干していた真央くんも、何言ってんだこいつ、みたいな顔で日向先輩のことを見ていた。さらにその隣で日焼け止めを塗っていた紫苑先輩は、呆れたように笑った。


「心の洗濯、とかまた言い出すんじゃないでしょうね」

「ちょっと! 紫苑先輩それネタバレ!」


ぐおん、ぐおん、洗濯機の音がする。もうそれ聞き飽きたわよ、と溜め息を吐く紫苑先輩の様子から察するに、日向先輩はどうやら似たようなことを言ったことがあるらしい。

何ですかそれ、と首を傾げると日向先輩は誇らしげに胸を張って、こう言った。


「ここの部員はさ、最初思い詰めた顔してることが多いんだよ」


それはきっと、みんな何かしらを抱えて生きているからだと思うんだけど。そんな前置きをしてから、日向先輩はこう続ける。


「でも俺は思うんだ。誰だって落ち込んだり、泣きたくなったり、悲しくなったりすることはある。良い感情だけを持って生きていける人なんて、多分この世の中にはいなくて、嫌な感情はどこにだって生まれるものなんだよ」