私がそう言った途端、掴まれていた手は離される。何だよ紛らわしいな、と言わんばかりの視線を投げつけた真央くんは、そのまま部室の中へと戻っていった。
「え~、違うの?」
「当たり前じゃないですか。っていうかなんでいきなり村瀬さんが出てきたんですか」
つまらなさそうに唇を尖らせた紫苑先輩。今日も赤いリップが綺麗に塗られている。
今度こそ洗濯物を取り出しながら日向先輩へ問いかければ、ここだけの秘密なんだけど、と日向先輩は声を潜めた。
「あいつ最近、葵ちゃん葵ちゃんうるさいんだよな」
「……気のせいじゃないですか」
「あ、照れてる? 葵照れてる?」
面倒くさいテンションになってきた日向先輩を無視して、洗い終えた洗濯物を全部取り出してかごに入れる。そのあともう一つのかごの洗濯物を洗濯機に入れて蓋をした。お願いだから無視はやめて、と日向先輩の声を聞きながら第二弾をまわす。
実際、村瀬さんと話す機会は最近増えているとは思う。だけどそれは口説かれているわけではない。日向先輩の様子を伝えているだけである。
様子を伝えるといっても、この前こんなこと言ってました、って報告をする程度の話だし、村瀬さんの期待している情報を与えられているとは思わない。それでも聞いてくるということは、何か理由があるのだろうけれど、その理由を聞けるほど村瀬さんと話すことに慣れてはいなかった。