その容姿に、私はまたも息をすることを忘れていた。


鎖骨下あたりまで伸ばされた艶のある黒髪、モデルさんみたいにすらりと高い背丈。

白く透き通るような肌に赤いグロスがよく映えている。驚いたように私を見る大きな瞳は、黒曜石みたいだ。


「……あ、えっと、私その」

「あなたが新入部員の一年生ね」


とりあえず事情を説明しなければ、と焦る私を気にも留めず、美人さんはすぐに察したように笑顔を浮かべた。

その少しハスキーな声が見た目とのギャップを生んでいて、不思議な安心感を与えてくれる。

はい、と咄嗟に頷くと彼女はさらに笑顔を輝かせて、私の腕を掴んだ。


「やった、久しぶりの女の子! こんなところで話すのも何だし、お茶でも淹れるわね。さ、入って入って」

「へ」


ぐいっと引っ張られた腕によって、いとも簡単に私の足は美青年の作った境界線を飛び越える。

ええええ、と思いながらちらりと美青年を見上げれば、彼はこの世の終わりかのような顔をしていた。


「ちょっと散らかっててごめんね、はい、ここに座って」

「え、あの」

「紅茶かコーヒーか日本茶か、あ、オレンジジュースもあるよ。どれがいい?」

「いや、お構いなく……」

「分かった、オレンジジュースね」


あ、それ一番飲みたかったやつだ。というより私は紅茶もコーヒーも飲めない。

言葉のキャッチボールは成立していないけれど、どうやら美人さんには私の気持ちが伝わったらしい。バタンと冷蔵庫が開閉する音が聞こえる。

もはや私に逃げるという選択肢は残っていない。座って、と促された椅子に大人しく腰掛けることにした。