「私たちが高校に入って一ヶ月くらいしたときにね、この辺で強姦未遂事件があったのよ」


ヒュッと喉が鳴った。

そんな私を見て、紫苑先輩は苦笑する。


「慌てて病院まで会いに行ったわ。でもね、あの子は私のことを覚えていなかった。精神的な苦痛を受けたことで記憶の一部を失ったんだって。ボロボロになったあの子に拒絶されて、私は心底死にたくなったわ」

「……紫苑先輩」

「それでも私、馬鹿なのよね。どうにかして話したいと、……隣にいたいと思ってしまったのよ」


ねえ葵ちゃん、と紫苑先輩がうわごとのように言う。私はもう、先輩の顔を見ることができなかった。


「私が男だって知ったら、あの子はどうなると思う?」

「……っ」


「抱きたいって思うわ。最低でしょ。でも仕方ないじゃない、私はあの子のことが好きなんだもの」



聞かなければよかったと、今さら後悔しても遅い。

今にも泣きそうな顔で笑う紫苑先輩に、どんな言葉をかければいいのか、なんて私に分かるはずもなかった。



「だから私は、この汚い気持ちを悟られないように、完璧な女の子を演じるのよ」


笑えるでしょ、と呟いた紫苑先輩から、甘いフローラルの匂いがする。

鎖骨下あたりまで伸ばされた艶のある黒髪。白く透き通るような肌。赤いリップの映える唇。


――それはどこからどう見ても、完璧な女の子だった。