「日向にも真央くんにも、桜と会わせたことはないわ。……どういう意味だか分かる?」
「えっと……男性恐怖症、とか」
「ぴんぽーん、その通り」
紫苑先輩はわざとらしく明るい口調でそう言った。
私は自分で答えておきながら、それが正解だったことに困惑した。桜さんが男性恐怖症ということは、生まれた頃からずっと一緒に育ってきた紫苑先輩はどうしていたのだろう。
そんな疑問を読み取ったかのように、紫苑先輩は言葉を続ける。
「昔はそんなことなかったのよ。私も普通にモテモテのイケメンだったわ」
「あ、そうなんですか」
「……葵ちゃん、ここは突っ込むところよ」
そう言われても、これだけ美人な紫苑先輩がイケメンじゃないわけがない。きっと男の人の姿だったとしても、モテモテなことには変わりないだろう。
それにしても、と思う。昔はそんなことなかった、ということは、桜さんが男性恐怖症になったのには何かきっかけがあるはずだ。
「あ」
そこまで考えて、不意に思い出したことがあった。突然声を上げた私を、紫苑先輩は不思議そうに見る。
「桜さん、記憶が曖昧なところがある、って……」
黒曜石みたいな瞳が揺れた。
紫苑先輩の綺麗な横顔が歪んだのを、私は見てしまった。
きっとそれが答えだった。