そもそも今日、紫苑先輩と一緒に桜さんの元へ行くことになったのは、私が紫苑先輩が女装している理由を知りたかったからだ。
性的マイノリティーというわけではない、と紫苑先輩が言っていたあの日から、自分でもそれ以外の理由を探してみた。でも、答えは見つからなかった。その答えが桜さんに会えば分かるのだろうと思っていたけれど、実際に会ってみてもよく分からなかった。
その話が出るどころか、三人で羊羹を食べて少女漫画を読んで最近のドラマについて話したくらいで、完全に女子会だったのだ。
首を突っ込むべきじゃなかったのかもしれない。理由なんて聞かないほうがよかったのかもしれない。
でも、気になってしまったのだ。
「あの、ちょっと聞いてもいいですか?」
革の鞄を肩にかけ直しながら、私は顔を上げた。紫苑先輩は小首を傾げて、続きを促してくれる。
「紫苑先輩がその格好をしているのは、どうしてですか?」
我ながらど直球な質問だったと思う。けれど、変にオブラートに包んでも、きっと紫苑先輩には気付かれてしまうのだろう。それに私は話すのが下手だ。上手くオブラートに包む技術を持ち合わせていたら、こんなにこじれることはなかったと思う。言葉は少なく、短く。うん、これでいいはず。
どきどきしながら紫苑先輩の答えを待った。吹き抜けていく風が冷たい。五月の下旬とはいえ、まだまだ寒暖の差が激しい。そっと肩を縮ませつつ、視線は紫苑先輩から離さなかった。
紫苑先輩は私の投げかけた質問に、一瞬驚いたように目を見開いた。風でなびく艶のある黒髪は、街灯の光を受けて輝いている。真意を探るようにじっと向けられた視線は、しばらくの沈黙のあと、不意に緩められた。