「ありがとね、葵ちゃん」


すっかり夜になってしまった空の下、駅まで送ると言ってくれた紫苑先輩と二人、並んで歩く。

お礼を言うのは私のほうです、と首を振ると紫苑先輩は少し考えるように間をとってから、こんな話をし始めた。


「桜はね、幼なじみで。あ、私の家、あの子の一個上の階なんだけど、生まれた頃からずっと一緒に育ってきたの」

「え、紫苑先輩のおうちもあそこなんですか? じゃあわざわざ送っていただくの申し訳ないです」


よく晴れた東の夜空には、まん丸の月が上ってきていた。ガードレールに区切られた歩道は、等間隔に並んだ街灯で照らされている。車の通りもそれなりにあって、この時間に一人で歩いても怖くなさそうな道だと思った。

私がそう言って立ち止まると、隣を歩いていた紫苑先輩は慌てたように振り向いた。


「それは駄目よ、葵ちゃんは女の子なんだから」

「いや、でも……」

「駄目なのよ!」


突然言葉を強めた紫苑先輩に、思わず肩が強張る。一瞬の沈黙のあと、ハッとしたように紫苑先輩は私を見た。


「あ、ごめ……、ごめんなさい、葵ちゃん」


ごめんなさい、と。もう一度力なく呟いた紫苑先輩。いえ、と首を振りながら、いつもと違うその様子に私は疑問を抱いていた。