そこで逡巡するように言葉を区切った桜さんは、右へ左へと視線を泳がせる。

どうしたんだろう、と続きを待っていると、何かを決めたように桜さんは小さく頷いて私を見た。


「ねえ、葵ちゃん」


ゆっくりと私の手に桜さんが触れる。白くて、ふっくらしていて、綺麗に爪が切りそろえられている手。

冷え性なのか、少しひんやりとしたその両手は、私の左手を包み込む。



「私と、友だちになってください」


前髪に隠れた私の瞳を覗き込むようにして、桜さんはそう言った。

高校に入ってから、私がなかなか言えなかったその言葉。誰かに言ってもらえるなんて、思ってもみなかったその言葉。

真っ白になった頭の中で、その言葉を噛み砕いていく。

すると、じわじわと心が温かくなって、鼻の奥がツンとして、喉元に何かが込み上げてきて。慌ててそれを隠すように息を吸う。



「わ、……私でよければ!」


いっぱいいっぱいになりながら頷くと、桜さんはゆるゆると口角を上げて、きゅっと私の手を握った。

左手に力を込めて握り返すと、私と桜さんの体温がどんどん混ざっていくような気がして、私はとても、とても嬉しかった。