「だって、桜ずっと言ってたじゃない。友だち欲しいって」
「あ、ちょっと! もう、それ葵ちゃんの前で言うのは禁止だよ」
「へ?」
急に出てきた自分の名前。湯呑みから口を離して聞き返せば、桜さんは極まりが悪そうに目を逸らした。
その様子に紫苑先輩は意地悪く笑って、私に向けて囁く。
「この子、友だち少ないのよ」
「ちょっと、もう~! なんで私にも少し聞こえるように言うのよ」
絶対わざとでしょ、といじけたように桜さんが紫苑先輩を睨む。
その視線を受けながらお茶を啜る余裕を見せている紫苑先輩は、どうやら桜さんのことを完全にからかっているようだ。
一方で私は、桜さんに友だちが少ないという話に衝撃を受けていた。初対面の私に対してこんなに優しくしてくれる桜さんに友だちが少ないだなんて、想像がつかない。
ぽかんと口を開けた私に桜さんは、お恥ずかしい、と笑う。その照れくさそうな表情を見て、私は慌てて口を開いた。
「あ、いや、あの、私もあんまり友だちいないので!」
「え?」
「全然気にしてないです、というか、えっと、確かに桜さんに友だち少ないのは意外だと思いますけど、その、こんなに素敵な桜さんでも友だち少ないんだったら私に友だちいないのも納得できるというか、何というか……」