「へ、え、なに?」


戸惑いながらそう問えば、ずいっと差し出されるスケッチブック。開かれたページに視線を落とすと、無地の白い紙の上、並んだ文字がこちらを向いていた。

儚げな美青年の印象と合致しない、濃く乱雑に並べられた文字。


(なんでこんなところに来たんだ)


その一文に驚いて目を見開くと、ぺらりとページが捲られる。



(それ以上、こっちに来るな)


「……それ以上って」


口がカラカラに乾いて声がかすれる。ぽとりと言葉を落とせば、無言で指差された足元。

私の足元にはちょうど、さっき彼に並べられていた石が列を成していた。

彼はこの石より向こう、すなわち空き教室に来るなと言っているのだろうか。


呆然と立ちすくんでいると、スケッチブックを持った彼の手が不意に力なく下ろされていった。

思わず顔を上げて彼の口元に視線を向ければ、ヒュウ、と息が零される。



(お願いだから)



そう動いたように見えた彼の口。

え、と口を開きかけたが、その言葉を聞き返すことはかなわなかった。


その代わりに。



「ねえ真央くん、どうしたのって……、あら!」


ひょっこりと空き教室から女子生徒が顔を出した。