無難にラグの上に座らせてもらおうかな、とふらふら部屋の中を歩いていれば、お茶と羊羹を乗せたお盆を持った桜さんが足でドアを開けながら入ってきた。


「お待たせ~」

「……足でドア開けるのはやめたほうがいいんじゃないかしら」


言ってくれたらドアくらい開けるわよ、と紫苑先輩が苦笑いを浮かべる。

桜さんは特に気にした様子もなく、そうだね、と返しているのできっとそれは癖なのだろう。

ふわふわと可愛い桜さんの意外な一面に、何となく緊張が解けたような気がした。


「葵ちゃん、さっきはごめんね」

「え?」


温かい緑茶の入った湯呑みを受け取りながら、突然の謝罪に首を傾げる。

何のことだろう、と思い返してみるけれど謝られるようなことは何もなかったはずだ。



「私、ちょっと記憶が曖昧なところがあって。初対面だと思ってる人が実はそうじゃなかったってことがたまにあるの」