「わ、羊羹だ! 私甘いもの大好きなの」

「そ、それはよかったです」

「美味しいお茶淹れてくるね、ちょっと待ってて」


そう言ってそそくさと奥の部屋へ消えていく後ろ姿を眺めながら、私はちゃんと渡せたことにほっと息を吐いた。

何せ、あの羊羹はお母さんが持たせてくれたものなのだ。今度人の家に行くかも、と零したのは紫苑先輩に誘ってもらった日の夜のこと。その翌日にはすでに用意されており、葵の手土産用、とご丁寧に付箋まで貼ってあった。

そこまでしてもらっておいて渡せずに帰ったりしたら、きっと色んな意味で心配される。うっきうきで用意しているお母さんの姿がいとも簡単に想像できるからこそ、私はこの大きな任務を果たせたことに安堵した。



「葵ちゃん、こっちこっち」


紫苑先輩のハスキーな声に、ハッと我に返る。桜さんが消えていったのとは別の部屋から顔を出している紫苑先輩を見つけ、慌てて私はその部屋へと足を進めた。


桜さんの部屋だと思われるそこは、白とブラウンを基調とした全体的にナチュラルな空間だった。ところどころに飾られている観葉植物がお洒落で、だからといって生活感が全くないわけでもなく、本棚にたくさん並べられている少女漫画の中には私も読んだことがあるものが何冊かあった。

居心地のよさを感じながら、どこに座るべきかと考える。紫苑先輩はいつもの定位置なのかベッドの上に座っているけれど、初めて来た身としては少し憚られる。