不安げなその様子に一瞬ハテナが浮かんだけれど、はじめましてです、と頷くとほっとしたように女の人は笑った。そして、思い出したように背筋を伸ばす。


「紫苑のお友だちだよね、はじめまして、桜っていいます」

「あ、私は戸田葵といいます。紫苑先輩の、えっと、後輩で」


私も背筋を伸ばして名乗ると、女の人――桜さんは柔らかそうな頬を緩めて、目尻を下げた。


「ねえちょっと、そろそろ上がってもいいかしら?」

「あ、ごめん、つい嬉しくなっちゃって。上がって上がって」


痺れを切らした紫苑先輩に、桜さんは慌てて私たちを中に入れる。ローファーを脱いだ紫苑先輩が慣れたように廊下を進んでいく後を追いながら、私は手に持っていた紙袋の存在を思い出した。


「あ、あの! これ良かったら」


私の部屋で待ってて、と桜さんが振り向いたタイミングで紙袋を差し出す。


「え! そんなの全然いいのに~」


わざわざありがとう、と先程の紫苑先輩と似たような反応を示した桜さん。いえ、と手を後ろに組んで俯けばそれを見ていた紫苑先輩がくすりと笑った。