「たとえば、……そうね、性同一性障害とかって聞いたことない?」
それなら聞いたことがある。つまり紫苑先輩は、自分の身体と心の性別に対して不適切感を抱いているというわけではない、ということか。
じゃあどうして、と首を傾げた私に、今度一緒に行きましょ、と紫苑先輩は提案をしたのだった。
そして今に至る。
「でも、あの、私がいたらお邪魔しちゃうんじゃ……?」
だってデートですよね、と私の頭に手を乗せたままの紫苑先輩を見上げて呟くと、紫苑先輩は笑った。
「デートか~。確かにそうと言えばそうなんだけど、……まあすぐ分かるわよ」
「?」
「ここよ」
立ち止まった紫苑先輩に合わせて、私も足を止める。そしてその建物を見上げた。
「マンション……」
「葵ちゃん、オートロック解除したから早くおいで」
「あ、はい!」