いや、確かに紫苑先輩は貧乳だ。もうそれを乳と言うのも憚られるほどのぺったんこだ。まな板だ。何ならちょっと太った男の人のほうが全然大きい……って私は何を言っているんだ。
とにかく、いくら貧乳だからといって、さすがにブラまでしていないなんて、どう考えてもちょっとおかしい。
しかも紫苑先輩自身がこの状況をまったく気にしていない様子である。
まるでそう、自分は女じゃない、みたいな――。
そこまで考えて、はた、と止まる。
え、と思いながら紫苑先輩の顔を見れば、クリンと綺麗に上がった睫毛と赤いリップの似合う唇が完璧に配置されていて、どこからどう見ても美人さんでしかない。
そのままゆっくりと視線を下げる。紫苑先輩の上半身を包んだ布の隙間から覗き込むようにして見た何も付けていない胸は、やっぱりちっとも膨らんでいなくて。
「……紫苑先輩」
どういうことですか、と縋るように名前を呼ぶ。
情けない顔をしている私を見て、言ったことなかったかしら、と紫苑先輩は綺麗に笑ってこう言った。
「私、男だよ」
ドッシャーン、と。
大きな雷がどこかに落ちた音がした。