「…………、……っ!」
しかし聞こえてくるのはヒュウ、ヒュッ、ヒュウッという息の音だけ。
訳が分からず、だからといって逃げ出すこともできず、両肩を強く掴まれたまま立ちすくむ。
こわい。こわい、嫌だ。やっぱり部活なんて無理だ。
友だちを作ろうだなんて、そんなことを少しでも考えてしまった自分に嫌気が差す。
どうせ上手くいくはずもないのに、どうして私はここに来てしまったんだろう。
ぐるぐる、ぐるぐる。自分自身を罵倒する声が頭の中を駆け巡る。
やっぱりいいですと言って、この場から去ろうか。しかし美青年はいまだ拘束する力を弱めておらず、ヒュウヒュウと息を吐き出している。
「……な、なに、何て言っているんです、か?」
その必死の訴えに、思わずそう問いかける。
すると美青年はハッとしたように目を見開き、少し固まったのち、私の肩を掴んでいた手を離した。
急に解放された私は思わず二歩ふらりと後ずさる。緊張と恐怖で膝の力が抜けていた。
美青年はそんな私を一瞥して、そのまま乱暴に空き教室のドアに手をかける。
その手がガラッと大きな音を立ててドアを開ければ、空気のこもっていた五号館の廊下を風が通り抜けていった。
そして。
「ちょっと真央くん、急にどうしたのよ?」
教室の中からハスキーな声が聞こえてくるのと、美青年がスケッチブックを持って私のところに戻ってきたのはほぼ同時だった。