「葵ちゃんこれ雨晴れ兼用だから使って」

「へ」


日向先輩の後に続いて走っていると、濡れたら透けちゃうでしょ、と隣に並んだ紫苑先輩が私の手に日傘を握らせた。

その気遣いに、ありがとうございます、と言いかけて止める。


「え、いやいやこれ紫苑先輩のなんだから紫苑先輩が使ってください!」


トランペット吹きの肺活量舐めんな、と思いながら発した私の声は聞こえているはずなのに、紫苑先輩は振り向かずに走っていく。

傘に当たる雨の音がより一層大きくなるのを呆然と聞きながらその後ろ姿を眺めていると、トン、と背中を叩かれた。

振り向くと野球部の洗濯物を抱えた真央くんが立っていて。すっと膝を曲げたかと思えば滑り込むように傘の中に入ってきた。


「……さてはおぬし、疲れたんだな?」


真央くんの頭が傘に当たらないように腕を上げながら問うと、色素の薄い瞳がゆっくりとこっちを向いて、肯定を示す。

その反応がいつもと変わらなさすぎて、ふざけた自分がちょっと恥ずかしくなった。