それに、と視線を戻す。
二人が言い合いをしているところは今まで何度も見ているけれど、こんなにピリピリした雰囲気になることは無かったはず。
ということはきっと、みんなが触れないようにしていた核心に触れてしまっているということだろう。
核心とはつまり、―― “死にかけ”の抱えている秘密だ。
「……そうね」
どうしようどうしよう、と思考を巡らせていたとき。ふう、と息を吐き出して呟いたのは紫苑先輩だった。
「ごめんなさい、ちょっと感情的になっちゃったわ」
張り詰めていた空気が緩む。
せっかくの美貌が台無しよね、と目尻を下げた紫苑先輩に、日向先輩も肩の力を抜いたようだった。
「そうっすよ。やっぱ美人には笑顔が似合うな!」
「え~、美人って誰のことよ~?」
「胸もあれば完璧だったんだけ……いたっ、痛い痛い痛い! ごめんって、こら!」
日向先輩は余計なことまで言って耳を引っ張られている。いつもの雰囲気に戻すためにわざとそれを言ったのだと、疎い私でもさすがに分かった。