ズズッ……。
ズズッ……。
何かが部屋に入って来た!
この音は、おまじないの時に聞いた、幽霊の足音に似ているけど……。
もしかして、付いて来てたの!?
やめてよ……どうして家にまで現れるのよ!
布団を頭まで被って、来ないでと祈る事しか出来ない。
浴室で見たあれは、見間違いじゃなかった。
そう考えると、今になって怖くなってきた。
湯船の黒い球体も、お湯の中から出た手も、私に憑いた幽霊だと考えると……。
ダメだ、怖くて考えたくもない。
ズズッ……。
ズズッ……。
ガタガタ震える事しか出来ないのに、フローリングの上を移動している音は、こちらに近付いて来ている。
そして……その音が、ベッドの横で止まった。
どうしよう、どうしよう!
この布団も引き剥がされて、幽霊に襲われてしまうんだ!
そうなりたくはないと、必死に布団を掴んで、身体を丸めて抵抗する。
だけど、どれだけ時間が経っても、布団は剥ぎ取られなかった。
身体を強張らせたまま、恐怖に震えていたけど……幽霊に襲われる事もなく、私はただ、時間が経つようにと祈っていた。