私は……幽霊に襲われて、突き飛ばされる前に、突き飛ばしただけだよね。


ああ、そうだ。


今の南部君は、幽霊が見せた幻だったんだよ。


南部君は、今頃ここに向かっているはず。


なのに、どうして向井さんは叫んでるの?


どうして車道に飛び出しているの?


トラックが停まった場所に、皆が駆け寄って、大騒ぎになっている。


「わ、私は……幽霊を……」


南部君であるはずがない。


そうだよ、私は幽霊を突き飛ばしたんだから。


混乱している頭で、この状況を整理しながら、私もおぼつかない足取りで車道に下りた。










「おい!救急車を呼べ!」


「それより車を動かせよ!!後輪の下敷きになってるぞ!!」









騒然とする現場にフラフラと歩み寄って……泣きじゃくる向井さんのそばに立った。


「潤!潤!!うわあああああっ!嫌だああああっ!!」


「む、向井さん……な、南部君じゃないよね?それ、南部君じゃ……」


トラックに巻き込まれて、グチャグチャになった人の身体。


黒い制服の胸に付いている、割れたネームプレート。










「南部 潤」












それを目にした瞬間……私の心は、音を立てて崩壊した。