幽霊が迫って来る。


数日ぶりに見たその姿に、儀式の時の恐怖が甦ってくる。


顔の皮膚が、後ろに引っ張られそうな感覚。


少しでも動けば、身体を切り裂かれてしまいそうな冷気。


忘れていた感覚が、忘れさせてなるものかと襲い掛かる。


膝がガタガタと震えて、逃げたいのに足が動かない。


「あ……ああ!こ、来ないでっ!」


私が叫んだ時にはもう遅くて、幽霊の右手が私の肩を掴んだ。


このままじゃあ……私は突き飛ばされてしまう!


「やめてっ!放してよっ!」


足は動かなくても、せめて腕を動かして身を守らないと。


その思いが腕を動かして、幽霊の手を払いのけた。


「菜々!?何してるんだ!?」


幽霊が見えない向井さんには、私が何をしているかなんて分からないだろう。


だからこそ、私だけでどうにかするしかない。


「ゆ、幽霊が!幽霊が!!」


突き飛ばされないようにと、必死に幽霊を振り払うけど……。


強い力で抱き付かれて、私はよろめいた。


瞬間、目に入ったガードレールの切れ目。


突き飛ばされるくらいなら、突き飛ばしてやる!


とっさにそう判断した私は、幽霊の身体に手を押し当てて、身体の向きを変え、力一杯幽霊を国道へと押し出した。