「ここを下りたら菜々の夢が、ただの夢だったって事が分かるさ。心配するな。幽霊はもう、菜々には憑いていないんだから」


「はい、そう信じます」


向井さんの言葉に小さく頷いた私は、最初の段に足を乗せた。


ここまで何も起こらなかったんだ、きっと大丈夫。


何も起こらないという事を証明するためにも、夢の場所に立とう。


階段を下りて、到着した夢と同じ場所。


空が暗い。建物や外灯の明るさには見覚えがある。


夢の中で見た景色と同じ。


忘れていた記憶が、全く同じ場所に立った事で思い出したのだ。


歩道を行き交う人々、放置自転車、そして……。











外灯に照らされて、こちらに向かって歩いて来る笑う幽霊。












「い、いるっ!!」


どうして?南部君が助けてくれたんじゃなかったの?


それとも、大切な物……私の命は絶対に奪われてしまうの!?


だったら、南部君は無意味に儀式をしただけじゃない!


「お、おい!菜々!いるのか?幽霊が見えるのか!?」


震える私を、心配してくれる向井さん。


だけど、私にしか見えていないようで。


幽霊は私がいる事に気付いたのか、ニヤリと不気味な笑みを浮かべて、突然走り出したのだ。