ドキッと、身体中が冷たくなる感覚に包まれ、すぐに振り返った私は、その声の主を見た。


クラスの男子に挨拶をして、こちらに向かって来る南部君。


「お、おはよう。南部君」


「おはよう。な……森川さん」


今、菜々って呼ぼうとした?


クラスメイトがいっぱいいるこの教室で、それは危険だと判断したのだろう。


顔を赤くして、言い直したという事が分かる。


「風邪は治ったの?」


「まだ咳は出るけど。熱は下がったよ」


いつもと変わらない、ただの日常会話。


付き合っていても、学校にいる時はやっぱり変わらないか。


「あれっ?あ、今日俺、日直だ。面倒臭い……」


黒板の隅に書かれている名前を見て、ガッカリと肩を落とした。


うちの学校の日直は、授業の準備から片付け、プリントの配布など、先生のサポートをするので、休み時間も動かなければならない。


自由な時間なんて無いに等しいのだ。


「それは……面倒だね。じゃあ話は昼休みかな」


「そうだね。あーあ、月曜の日直とか、最悪なんだけど……」


カバンを机の上に置いて、頭を掻きながら教室から出て行った。


ゆっくり話が出来ると思ったのに。


まさか南部君が今日の日直だなんて、私も思わなかった。