職員室までもう少し。


何とか生徒玄関の前まで辿り着いた幸村さんの目からは、涙が溢れていた。


顔中に冷や汗をかいているけれど、目から頬を通っている筋が、涙だという事を教えてくれる。


頑張れ、頑張れと励ましているけど……お父さんの話では、生徒玄関の前で死んだんだよね。


と、なると……もう、幸村さんは死んでしまう。


「はぁ……はぁ……」


後少しで先生に助けを求める事が出来るというのに……。


幸村さんの手は、そこから前には出る事がなかった。


力尽きたように顔を床に付け、ビクンビクンと身体を震わせて。


小さく口を開いた幸村さん。


何を言おうとしているのだろう。


助けを求める言葉なのか、それとも木村さんに対する恨みなのか。


顔を近付けて、その言葉を聞くと……。










「ごめ……馬場君……」









約束を守る事が出来なくなって、大切な友達への謝罪の言葉。


先生に助けを求めたかっただろう。


木村さんへの恨みもあっただろう。


でも、幸村さんが最後に呟いたのは、そんな物じゃなかった。


その言葉を呟いた後、目を開けたまま、幸村さんはピクリとも動かなくなった。


死んだとは思えない、綺麗な顔のままで。