「嘘……でしょ!?あるはず……なのに」


この焦り方は普通じゃない。


もしかして……。


「く、薬が……」


荷物をそのままに、フラフラと立ち上がった幸村さんを見て、私は思い出した。


「あ……あの女の子が持ってたのって」


幸村さんの肩に手を回したあの女子が持っていたプラスチックの箱。


胸の辺りで手が動いていたのはまさか。


「だ、誰か……助け……」


壁に手を突いて、慌てて教室に駆け込んだ幸村さん。


備え付けの内線電話の受話器を取って、ボタンを押そうとしているけど、指は動かない。


「職員室は……何番?」


助けを求める事も出来ない。


電話を掛けるのを諦めたのか、受話器から手を離して教室を出た。


おぼつかない足取りで廊下を歩く幸村さんを、私は励まし続ける。


「ほ、ほら、私に掴まって!苦しいんでしょ!?」


いくら手を差し伸べてみても、私の姿は見えていない。


どれだけ助けたいと思っても、ここでは私はただの傍観者でしかいられない。


自分の夢なんだから、その中でくらい自由にさせてよと思っても、それも叶う事はなかった。


「幸村さん!薬はあの子が!あの子が取ったんだよ!」


私は、声を掛ける事くらいしか出来なかった。