それから二人は、何を話すわけでもなく作業を続けた。


さすがに時間が気になったのか、教室の時計を見に行った馬場君。


慌てて戻ってくると、幸村さんの前で屈んで、両手を合わせた。


「幸村さんごめん!!塾があって、もう帰らなきゃならないんだ!」


何度も何度も頭を下げる馬場君に、幸村さんは驚いたように声を上げた。


「わ、私こそごめんなさい!こんなに遅くまで手伝わせてしまって。後は私がやるから……馬場君は帰って。本当にありがとう」


そう言うと、そっと馬場君の手を取り、頭を下げた幸村さん。


やっぱり綺麗だ。


動きの一つ一つが本当に美しくて、馬場君が好きになるのも頷ける。


「幸村さん、体調は大丈夫なの?今日はここまでにして、やるなら明日の朝にやるとかさ」


「今日は不思議なくらい調子が良いから大丈夫よ。私の仕事だもの……私が責任を持って完成させるわ」


そう言われて、馬場君は安心したように立ち上がった。


そして、何度も頭を下げて帰ろうとした時。


「馬場君、明日の10時にこの前いるから。良かったら来て」


幸村さんが、顔を真っ赤にして笑い掛けたのだ。


「ぜ、絶対に行く!約束だよ!」


手を振りながらそう言い、馬場君は帰って行った。