帰宅途中で彩乃と別れた私は、さっきの言葉を思い返していた。


「願いが叶う……かぁ。彩乃は本当にあんな事、したのかな?」


19時19分、生徒が誰もいなくなった校舎で、三階にある音楽室の前に行って、何かを言えばそれは始まる。


この時に「何か」が背後に現れて、振り返らずにその「何か」にずっと話し掛けて、生徒玄関から出れば願いが叶うらしいけど。


それ以上の詳しい話は分からない。


分からないから、私は胡散臭いと思ってるし、やろうとも思わないけど。


でも……彩乃は願いが叶ったんだよね。


ただ話し掛けていれば良いって言うなら、私にも出来そうだ。


「って、何考えてるんだろ。そんな事、あるはずがないのにね」


薄暗くなった空を見上げて、家に帰ったら何をしようかと想いを巡らせる。


見たいテレビ番組もあるし、まだ読みかけの小説もあるけど……ママに、勉強しろって言われるんだろうな。


成績が良くて、志望校も余裕で合格出来るなら何も言われないんだろうけどさ。


ポケットから携帯電話を取り出して、画面を見てみると17時36分。


家に着いたら晩御飯とお風呂が待っているから、その後は勉強か。


遊ぶ時間なんて無いと考えると、受験が辛くてたまらなかった。