「そんなに言うなら分かったよ。私が余計な事をしたんでしょ。だったら帰る」


彩乃を心配して、儀式をした自分が馬鹿みたい。


視力が元に戻るより、身体がドロドロの方が良いって何よ。


助けたい一心で、南部君と向井さんの制止を振り切って儀式をしたのに。


彩乃の言葉に少し怒りながら振り返ると、部屋の入り口に立つ一人の男性が私の目に飛び込んで来た。


身長は向井さんよりもまだ高く、長い髪を垂らしてうつむいている……。


それが男性だと分かったのは、中学校の制服を着ていたから。











……誰?


彩乃にはお兄さんも弟もいないはずなのに。











「……は……にいる」











ボソッと呟いたその言葉で、この男性が誰かという事が理解出来た。


「弘志……さん?どうしてここに」


なんて言ってみたけど、夢なんだから理由なんてないのだろう。


私が見ているだけの、意味のない世界なのだから。










「幽霊は後ろにいる」










よほど印象に残っていたのか、夢の中の弘志さんはあの言葉を呟いている。


もう終わったのに、まだ言ってる。


弘志さんは私が失敗したのを知らないんだから、無理もないよね。