「わ、私と南部君は付き合ってるのに、先輩の向井さんはそれを知らなくて、口説こうと必死なの」


三階の廊下。


立ち止まっていたら凍ってしまいそうな冷気が漂うこの空間で、声を震わせながら話し続けた。


寒くて怖くて……涙が出そう。


教室のドアが開いていて、突然幽霊が飛び出して来たらどうしよう。


キュッキュッという音と、私の声だけが響く真っ暗な廊下。


ドアの前を通り過ぎるたび、反対側に顔を向けて、ドア側の目を閉じる。


まるでそちらに引っ張られているような、不快な違和感。


いたる所から感じる視線のせいで、そんな風に感じるのかもしれない。


「そ、そう言えば、彩乃はどうなったの?元に戻ったって事は、大切なモノも元に戻ったの?」


どうせ話さなければならないなら、会う事も出来ない、話も出来ない彩乃の事が知りたい。


せめて、彩乃が元に戻ったのかどうか。










「タイセツナモノハ モドラナイ……ソレイガイハ モトニモドル……」










返事をしてくれないかと思ったけど、答えてくれた。


彩乃の大切なモノが何だったのかは分からない。


だけど、大切なモノが自分の身体でなければ元に戻っている。


それが分かって安心した。