「全く……南部君がいなかったら、お風呂の中にも付いて来そうだよ、向井さんは」


用を足して、手を洗ってドアを開けた時だった。


廊下の向こう側、少し暗い玄関が正面に見えて、その光景の中にある一つの違和感に、私は息を飲んだ。


まだ19時19分を過ぎていないのに、どうして。












玄関のドアの前、私に背を向けて、あの幽霊が、どこかを指差して立っていたのだから。


その指がどこを示しているのか……。


今までは、怖いだけで考えもしなかったけど、改めて考えれば分かる。


学校の方角。


この幽霊は、私に二回目の儀式をやれと、一回目を終わらせた後からずっと、無言で促していたのだ。


いつもなら、19時19分を過ぎてから幽霊は現れる。


儀式の事が頭から消える時間だから、恐怖しか感じなかったけど……今は違う。


まだ儀式をしようという気持ちが強くて、幽霊の指示に逆らえない。


「分かってるよ。今なら出られるから」


小さくそう呟くと、幽霊はスーッと消えたのだ。


そして、私も玄関に向かって歩き出す。


トイレの照明は付けたままで。


大丈夫……今の幽霊を見ても怖くなかった。


学校で幽霊と話をするのだって、全然問題なく出来るよ。